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大阪高等裁判所 昭和59年(う)282号 判決 1984年7月27日

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人滝澤功治作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官検事大井恭二作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、原判決の事実誤認及び法令適用の誤りを主張し、原判決の破棄を求めるというのであるが、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせ検討して、以下のとおり判断する。

一事実誤認の主張について

まず所論の点を除いて、本件証拠上明白な事実として、次の事実が認められる。

すなわち、被告人は、昭和五七年一一月一日午後二時ころ、普通乗用自動車(以下被告人車という)を運転し、兵庫県加古川市加古川町寺家町一の一五五先交差点(以下本件交差点という)を西から東へ進入した際、折柄右方(南方)道路から交差点に向けて進行してきた井上勇雄(当時七四年)乗車の足踏自転車(以下被害自転車という)と衝突し、同人が原判示の傷害を負つたこと、本件交差点は、被告人が進行してきた東西に通じる幅員約4.0ないし4.5メートルの道路と、被害者が進行してきた南北に通じる幅員約4.1ないし5.1メートルの道路とが交差した場所であるが、同交差点から東への道路が南に寄つているため若干変形した交差点になつていること、交差点の周囲には商店など建物があるため東西、南北の道路とも左右の見通しが困難な交差点であるが、信号機等による交通整理は行われておらず、交差点北東の角にロードミラーが設置されているだけであること、なお、被告人が進行してきた道路は東行の一方通行と規制されていること、以上の事実が認められる。

ところで、所論は、原判決の「被告人車は本件交差点に時速約一〇キロメートルで進入し、右方より接近する被害自転車を肉眼で認め、衝突の危険を感じて急ブレーキをかけ、その地点から2.3メートル進行して停止したところへ被害自転車が衝突した」旨の認定を批難し、被告人車が交差点に進入したときの速度は時速約五キロメートルである(被告人が危険を感じてブレーキを踏んだ地点から被告人車が停止するまでの距離は約1.1メートルであつて、このことから逆算すると、被告人車の交差点進入時の速度は時速約五キロメートルと推認される)から、原判決はこの点において事実の誤認があるというのである。

そこで証拠を検討するに、原判決の前示認定に沿う証拠として、司法警察職員作成の二通の実況見分調書(以下実況見分調書という)及び被告人の検察官に対する供述調書があり、他方、所論に沿う証拠として、原審裁判所の検証調書(以下検証調書という)及び被告人の原審及び当審における各公判廷供述があるので、以下これらの証拠の信憑性について検討を加えることとする。

一般的にいえば、実況見分調書は事件に近接した時点で作成されるのが通常であり、現場の客観的状況を正確に表示するものとして高い証拠価値を有するものと考えられ、本件実況見分調書も、一通は本件事故当日に作成され(実況見分調書一という)、他の一通は事故から四〇日余り後に作成され(実況見分調書二という)たものであり、かつ、捜査段階における被告人の検察官に対する供述調書の供述内容もほぼ右各実況見分調書の内容と一致していることに徴すれば、特段の事情なき限りこれら各証拠の信用性は高いものと認めるのが相当であり、被告人が公判段階になつてそれまでの捜査段階での供述を翻し、また事故後七か月以上も経過した後に実施された裁判所の検証に際し、捜査段階と異なる指示説明をしているからといつて、右実況見分調書等の信用性がたやすく否定されるべきでないことは言うまでもない。

しかしながら、現実には、多発する交通事故の処理に際し、軽微な事故についてまでも厳格に詳細かつ正確な実況見分調書の作成を要求するのは、事故処理の実情に照らし無理な面があり、そのため、同じく実況見分調書という標題がかかげられている書面であつても、その内容は千差万別であつて、はなはだ簡略かつ粗雑な内容のものが存在することも否定しがたい事実である。これを本件各実況見分調書についてみると、右各実況見分調書にはその信用性に疑問を抱かさせる次のような事情が認められるのである。

すなわち、1 本件各実況見分調書は原審裁判所の検証調書に比し、簡略、概括的であり、かつ、やや粗雑で正確性に欠け、ことに、本件事故の実況見分において、最も重要と考えられる点は、衝突地点(各実況見分調書添付現場見取図点)及び危険を感じてブレーキをかけた地点(同見取図②点)の確定にあると考えられるのであるが、各実況見分調書では、この二点の位置が、そのそれぞれについて、二つの基点からの距離によつて特定する方法がとられておらず(実況見分調書一の現場見取図では基点は一個しかなく、同二の現場見取図では二個基点が示されているようであるが不明確である)、従つて本件各実況見分調書では、結局交差点における被告人の位置関係がはつきりしていないといわざるをえない。

2 右のように、本件各実況見分調書の事故現場見取図では、衝突地点や車の位置関係の特定が不十分であるといわなければならないが、当審における被告人の供述によれば、実況見分調書にいう衝突地点と検証調書にいうそれとでは、後者が前者より約五〇センチメートルほど北へずれるだけであつて、東西の位置には違いがないとのべていること及び当該道路の幅員や車体の長さから考え、東西の位置関係における衝突地点は実況見分調書のそれと検証調書のそれとは大体一致しているとみてよい(逆にこれが異なるとの反証はない)ところ、これを前提にして被告人車の位置関係を考察するに、検証調書によると同現場見取図(一)の点(衝突、被告人車停止時の被告人車車両右前部角)から③点(危険を感じブレーキをかけた地点における被告人車車両右前部角)までの距離は1.1メートルであり、同添付写真(一二)によれば右③点における被告人車の運転席の位置は交差点の角ぎりぎりの地点であることが認められるところ、同検証調書によれば衝突地点は右点(被告人車の右前部角)から四〇センチメートル手前(西方)であり、被告人車の運転席は衝突地点からさらに1.4メートル手前になる(実況見分調書によれば、被告人車の運転席は車両の先端から二メートルの位置にあり、衝突地点は車両の先端から0.6メートルの位置にあるから、被告人車の運転席は衝突地点からすれば1.4メートル手前の位置にあることになる)から、被告人がブレーキをかけた③の地点における被告人車の運転席の位置は、衝突地点から、被告人車が③からまで進行した距離1.1メートルに衝突地点から運転席までの距離1.4メートルを加えた2.5メートル手前の地点であることが計算上明らかである。しかるにこれを実況見分調書でみると、同調書における計測基点は衝突地点を除き被告人車についてはその運転席を基点とするものであるところ、同調書一の交通事故現場見取図によれば、衝突地点である点と、危険を感じてブレーキをかけた②点の各運転席間の距離、すなわち、②―③の距離は2.3メートルというのであるが、衝突地点は運転席からさらに1.4メートル前方にあること前記のとおりであるから、実況見分調書における危険を感じてブレーキをかけた際の運転席(②)の位置は、同調書の衝突地点(点)からは、右②―③の距離2.3メートルに右1.4メートルを加えた3.7メートル手前の地点という計算になる。そうだとすると、検証調書によれば衝突地点から運転席が2.5メートル手前の地点でブレーキをかけたことになり、実況見分調書によれば、それが3.7メートル手前の地点ということになるわけであるが、前説示のとおり、衝突地点の東西における位置関係は、実況見分調書と検証調書と大体一致しているものと認められ、実況見分調書でブレーキを踏んだとされる地点は、検証調書でのそれより約1.2メートルほど手前(西方)の地点になつてしまうところ、実際に車を置いて実施した検証調書及び被告人の当審公判廷供述によると、前記のように衝突地点から約2.5メートル手前の運転席(検証調書③地点における被告人車の運転席)から、かろうじて右方道路を肉眼で見通せる状況であることが認められる(検証調書添付写真(一二)参照)のであるから、それよりさらに1.2メートル手前(西方)に運転席が位置することになる実況見分調書にいうブレーキをかけた同調書②の地点では、右方(南西角)の建物にさえぎられて、肉眼で被害自転車を確認することができず、従つてそのような地点で危険を感じてブレーキをかけるはずがないのではないかという重大な疑問があり、従つて、被告人が危険を感じ(被害自転車を肉眼で認め)て、ブレーキを強く踏んだ地点が実況見分調書の②地点であつたとするには多大の疑問が存するものといわねばならない。(図面が正確な縮尺によつて作成されていないことを前提にしても、実況見分調書二の事故現場見取図②の地点の図示は、右の疑問、すなわち②点から右方道路を見通すことができない事実を示しているといえよう)。

3 さらに、右実況見分の際に指示説明をした事情や取調官に対し本件事故の状況等を供述した事情について、被告人が原審公判廷で弁明するところをみるに、被告人は、原審において自分が実況見分の際、交差点に進入するときの速度を時速一〇キロメートルといい、またブレーキをかけた地点を各実況見分調書現場見取図の②点であるといつたのは、取調べ警察官より「書類で済む」程度の軽い事故であつて、処罰を受けることはないであろうと聞かされたことから、安易な気持で臨んだため、大体のところを確信を持てないまま指示したにすぎないと供述しているのである。本件が交通事故としてははなはだ軽微な部類のものであること、衝突地点或は危険を感じてブレーキをかけた地点というのも、本件では一瞬間のわずかな距離のちがいが問題にされており、もともとこれらの地点は、破損物が落ちていたりブレーキ跡が残されているなど客観的痕跡がない限り、当事者の大体の見当で特定せざるを得ないことが多く、かならずしも正確を期しがたいこと、速度にしても当事者の大体の勘によらざるを得ないのが通常であつて、ことに時速五キロメートルないし一〇キロメートルという僅差が問題となる場合はなおさらであることを考えれば、右被告人が実況見分の際大体のところを指示説明したにすぎないとする弁解も一概に排斥できないというべきである。

一方検証調書をみるに、それは、原審裁判所によつて検察官、弁護人、被告人立会のうえ実施されたものであり、検証事項は前示各実況見分調書よりも詳細な事項にわたつており、その方法も実際に本件被告人車を運転しながら施行するなど慎重な方法がとられており調書の表示記載も正確であることが認められ、かつまた、検証の際被告人が殊更虚偽の指示説明をしたと疑わせる事情も認められない。

以上のような諸点を総合勘案すると、本件においては、検証調書の方が各実況見分調書より合理的でかつ正確なものと認めるのが相当であり、また被告人の原審及び当審での各公判供述もことさら虚偽の事実を述べているとは認めがたく、少なくとも前記のような諸事情からすれば、ブレーキを踏んだ地点や衝突地点に関し、むしろ実際に車を運転しながら実施している原審裁判所の検証の方がより慎重かつ正確になされているということもできるのであつて、原判決のように捜査段階での実況見分調書や被告人の検察官に対する供述の方がより信用性が高いとするのには合理的な疑いがあるというべきであり、原審裁判所の検証調書及び被告人の各公判廷供述の方をより信用すべきものと考えられる。だとすれば、被告人が検証調書の指示説明において、また各公判廷で供述するように、被告人が被害自転車を肉眼で認め、危険を感じてさらにブレーキを強く踏み込み、それによつて被告人車がその地点から約1.1メートル進んだ地点で停止したと認定するのが相当であり、また右事実関係及び制動距離等から考えて原判決が認定した時速一〇キロメートルという被告人車の速度にも疑問があり、むしろ被告人車が交差点に侵入する際の速度は、被告人の公判廷供述のように時速五キロメートル程度であつたと認められる。従つて、原判決が被告人車の本件交差点に進入するときの速度を時速約一〇キロメートルと認定し、また危険を感じてブレーキをかけた地点から2.3メートル進んだところで停止したと認定したことは、事実の認定を誤つたものといわなければならない。

二法令適用誤りの主張について

所論は、原判決は、罪となるべき事実として「一時停止又は徐行をして左右の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これを怠」つたと判示するが、本件において、被告人には一時停止の注意義務はなく、また被告人が徐行及び安全確認の注意義務を怠つた過失は認められない、というのである。

そこで、さらに、被告人が時速約五キロメートル程度の速度で本件交差点へ向けて進行し、被害自転車を肉眼で認め危険を感じてブレーキをかけ、その地点から約1.1メートル進んだところで被告人車が停止したことは、前に認定したとおりであるから、これを前提として、被告人に業務上の注意義務違反があるか否かについて検討する。

原判決に示された法律判断によれば、自動車運転者は、本件交差点を西から東へ進行する場合には一時停止又は徐行(最徐行)をして左右道路の安全を確認すべき業務上の注意義務があるとしているところ、本件交差点が前説示のように左右の見通しの困難な、交通整理の行なわれていない交差点であるから、車両の運転者に道路交通法上の徐行義務があることは明らかであるが(道路交通法四二条)、さらに進んで一時停止の業務上の注意義務があるかはにわかに断定できず、本件交差点は一時停止の交通規制は行なわれていない場所であるから、業務上の注意義務としても特段の事情なき限り、一時停止義務はないものというべきである。けだし、道路交通法は交通の安全と円滑を調和せしむべく徐行すべき場所或いは一時停止すべき場所を決めているのであって、例えば車の鼻先を出しただけで衝突を免れないような交差点や優先道路との交差点などでは、別に一時停止の交通規制を行つているのが通常であり、規制のない場合には、業務上の注意義務としてのものであつても、一般的には一時停止義務を課することは相当でないというべきである。。

検察官は本件交差点が前説示のように変形交差点であること、被告人がロードミラーによつて右方道路から進行してくる被害自転車を事前に発見していることなどから、被告人に一時停止の注意義務があるかのようにいうが、本件交差点がいわゆる変形交差点であるといつても、道路幅員に優劣は認めがたく、通行量も、本件事故後の約七か月後の午前九時三〇分から同一〇時三〇分までの間に実施された原審の検証時におけるものではあるが、一分間に東行き八ないし一〇台、南北行き二ないし三台であつて、被告人通行の道路の方が通行車両の多いことが窺われ、また道路交通法三六条にいう左方優先の趣旨をも考えると、東行車両の方に注意義務を加重すべき理由は見出しがたく、またロードミラーが設置されている場合、これを確認するということは、安全確認義務を履行していることに他ならず、これを見ていない場合に比し注意義務が加重されるいわれはなく、ロードミラーで幼児、子供等通常人の行動を期待しえない者らが通行しようとするのを認めたとか或いは極めて無謀運転をして進行してくる車両を認めた場合など特別に危険な状態を確認しているような格別の事情あるときには、一時停止の注意義務が課される場合もあろうけれども、相互に優劣関係のない道路にあつて、通常、ロードミラーで車両が進行してくるのを認めたからといつて、前示のような格別の事情もないのに常に一時停止の注意義務ありとし、ひいては相手方が通過するまで待たねばならないという注意義務までを課するのは相当でない(原判決も「一時停止又は徐行」と摘示しているので、必ず一時停止をしなければならないとしている趣旨ではないと解される)。

そこでさらに進んで被告人の徐行の注意義務違反の有無について考察すると、道路交通法上徐行とは車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうと定義されている(道路交通法二条一項二〇号)が、具体的に時速何キロメートルをいうかは明らかではないとしても、前記認定の時速五キロメートル程度であれば勿論、時速一〇キロメートルであつても徐行にあたるものというべく、本件において業務上の注意義務としての徐行としても、時速五キロメートル程度のものであれば、これにあたると解するのが相当である。原判決は本件のような交差点に進入する車両には単なる徐行より一段ときびしい最徐行義務があるかの如き説示をしているのであるが、最徐行とは具体的にいかなる速度をいうのかの点は暫らくこれを措くとしても、前記のように被告人が時速五キロメートル程度の速度で進行していたとするならば、被告人において徐行(最徐行を含めて)の注意義務はつくしているものと認めるのが相当である。従つて、被告人には公訴事実にいう徐行の注意義務を怠つた過失はないというべきである。

原判決は、さらに、被告人が左右道路の交通の安全を確認すべき注意義務を怠り、右方の安全確認不十分のまま交差点に進入した過失があるというが、前説示のとおり、本件においては被告人に一時停止すべき注意義務はなく、また徐行の注意義務違反も認められないところ、原審検証調書、原審、当審の被告人の公判廷供述等によれば、被告人は本件交差点に入る前にロードミラーで右方を確認し、被害自転車を認め、徐行しつつ肉眼で確認できる場所(原審検証調書現場見取図(一)の③地点)まで進行したとき、右方から被害自転車が来るのを認め、直ちにブレーキをかけたが間に合わず衝突したというのであるから、被告人が右方の安全確認を怠つていたものとはいえず、一方、本件各証拠によれば、被害者は、本件ロードミラーの存在さえ全く気づかず、勿論ロードミラーによる左方の安全確認をせずに減速することなく進行し、衝突直前になつてはじめて被告人車に気づいたが、時すでに遅く、ブレーキをかけて停止した被告人車の右前バックミラー(車両の先端部から0.6メートルのところ)付近に衝突した事実が認められ、被害者に前方及び左方の安全確認を怠つた過失があることは明らかである。

なお付言するに、交差道路に優劣関係がなく、相互に見通しの困難な本件交差点を進行する被告人としては、右方から進行してくる相手方自転車においても、交差点での危険を避けるため、前方左右の安全を確認して減速徐行して衝突を未然に回避できるように体勢で進んでくるであろうことを信頼して、自らは徐行義務をつくしつつ進行することは無理からぬところであり、本件において、もし被害自転車において前方及び左方の安全を確認して注意して進行さえしていれば、本件衝突事故は未然に回避できたはずであるから、被告人の判断はむしろ自然というべく、本件事故の原因は被害者の過失に基因するものといわざるをえない。

以上みてきたとおり、また、その他、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌しても、本件事故が被告人の過失によつて生じたものとは認められないので、結局、本件公訴事実は犯罪の証明が十分でないといわざるをえない。従つて、被告人に原判示のような業務上の注意義務があることを前提とし、被告人に過失ありとして有罪の言渡をした原判決は、この点において事実を誤認し、かつは法令の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、本件控訴は理由があるので、刑事訴訟三九七条一項、三八二条、三〇八条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらに判決する。

本件公訴事実は「被告人は自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和五七年一一月一日午後二時ころ、普通乗用自動車を運転し、加古川市加古川町寺家町一の一五五先交差点を西から東へ進行して交通整理の行なわれていない左右の見通しの困難な交差点にさしかかつたから、一時停止又は徐行をして左右道路の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、右方の安全確認不十分のまま時速約一〇キロメートルで進入した過失により、右方道路から進行してきた井上勇雄(当七四年)運転の自転車に自車右側前部を衝突させて路上に転倒せしめ、よつて同人に加療七日間を要する左背腰部挫傷を負わせたものである」。というのであるが、前説示のとおり、犯罪の証明がないことに帰するので、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言い渡をすることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(家村繁治 田中清 河上元康)

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